夜のハノイその7「緋文字の娘たち」
夜のハノイその7「緋文字の娘たち」
少し前、ぼくは夜の娘たちの「緋文字の家」のことを話した。おしゃれで風雅な夜の娘たちも、遅かれ早かれ、いつかはこの「緋文字の家」に足を踏み入れる運命からは逃れられない。金も色も失って、年をとって行く。それは定められた法則のように彼女らを縛り付ける。その運命の輪から逃れ得る人はない。多くの娘たちは夫を得て堅実な生活ができるチャンスがあっても、また夜の生活に戻ってきてしまう。
実は「緋文字の娘たち」と、そうでないハノイの夜の娘たちの違いはほとんどないと言っていい。唯一の違いは彼女たちは鑑札をもっているし、それ以外の娘はもっていないという、ただそれだけだ。
駆け出しの頃には、女の子たちは青楼の中にかくれるようにしている。だんだん慣れてくると、女の子たちは「貸間」のグループに入って、客をとる。しかし、そんな女の子を監視する、女性たちがいる。この女性団は貸間の女の子たちを見張っていて、もし出入りする男がいつも同じなら恋人として許す。もし違うなら、捕まえて、女の子に売春の鑑札をとらせる。
鑑札をもった女の子たちは正式に夜の女になる。そして強制的に衛生検査所に行って診察され、サインをすれば、省の正式な「緋文字の家」の女性だ。
衛生検査のことを、彼女たちは「受験」と呼んでいる。この特別な「試験」を受けて、「卒業」すれば彼女たちは熟練者と証明されるのだ。
ハノイには「緋文字の家」がたくさんあるわけではない。せいぜい30というところだ。10万やそこらの人口では充分だろう。そこはただ赤い字で2桁の番地が書かれているだけだけれど、判別するのはたやすい。家は緑か白色の石灰で塗られ、中にははしごがかけられた狭い部屋が並んでいる。みんな「緋文字の家」のことを通りの名前で呼んでいる。ザーグー(36通りの中)、バックニン(36通りの西側)、イェンタイ(36通りの西側))、クアドンなど。しかしそれらの家はだいたい同じようなもので、競争をすることはない。だいたい女の子たちは礼儀正しくきちんとした服を着ている。しかし何か精気がない。隈があり、目はうつろで、太っている子はいても、不健康そうだ。娘たちには汗や息に、何かにおいがある。たぶんたくさんの薬に含まれたヒ素や水銀や鉛のにおいなのだろう。
しかし普通は誰が「緋文字の娘」かを区別するのはたやすい。服の着方や身振りで、一言も話さなくてもわかるからだ。
>>続く