夜のハノイその6「老練な通詞婦人」

夜のハノイその6「老練な通詞婦人」
T通詞婦人を知らないコーメ(洋娼の娘)はいない。彼女は影の主人、そして今までに何人のベトナム娘とフランス人の「結婚」を助けたかしれないほどの、月下氷人(仲人)である。「遊びにお出でください」という婦人からの手紙に、ぼくは喜んだ。婦人のいる所はいつも一定していない。彼女は6か月もしない内に館を転々としているのだ。
今彼女が借りているのはハンブン通りとクアンタイン道路の近く(ホエンキエム粉とタイ湖の間)。ぼくは8時頃にそこに着いた。入り口で言われたとおりにベルを押すと、田舎風の服を着た1人のメイドがやって来てあいさつをした。中にはいると笑いが聞こえ、女の子たちが、トランプや花札や賭け事に熱中している。入ってきたぼくを見て、彼女たちはぼくを一瞥し、そしてていねいにあいさつをした。
「お母さんはここに」
1人の女性が阿片盆を前に横になっている。彼女は、年で、白い絹の服を着て、髪の毛は巻いて櫛で止めて、それがT通詞婦人だった。そしてぼくに座るように進めた。
この館は広くて、家具の配置おおざっぱだ。寝椅子が3つ、壁に帽子と部屋履きがかかっている。ぼくは空いている椅子のひとつに座った。
「お茶をどうぞ」
そういう婦人の口には金歯がきらきらと輝いていた。さっきはメイドと思っていたけれど、お茶を持ってきた女の子のベールの下の肌は白く、フランス人とのハーフなんだとわかった。まるで「バーデー」という映画の主人公のようだ。ぼくは前に見た映画を思い出した。
T通詞婦人はぼくの様子に気がついて、笑って、そして言った。
「よくいらっしゃいました。どうぞ、この年寄りの話をお聞きなさい」
>>続く