失明した作家が書いた小説「陸雲仙」
本日は、失明した作家 阮廷炤(グェン・ディン・チエウ Nguyễn Đình Chiều)の書いた(って口述筆記ですけど)、
若者の立身出世小説(?)、「陸雲仙」(ルック・バン・ティエン Lục Vân Tiên)(1889年)を読みました。
大学書林から出ている、元は字喃(チュノム ベトナムの文字)で書かれたものを、抜粋して、ベトナム語から翻訳した本です。
■あらすじ
中国の安徽省(あんきしょう)出身の陸雲仙は、大変に優秀で、先生がとどめるのを聞かずに、科挙の試験を受けようとします。
ところが試験の前に、母が亡くなり、家に戻る途中病気になり、失明してしまいます。
また、仙の才能をうらやむ友人に殺されかけたり、盲目になった彼を疎む義理の父に殺されかけたりします。
そのたびに、茶館(旅館でもある)、漁師、出家した友人や、竜や遊神などが彼を救います。
目もまた見えるようになります。
最後には、科挙に1番で合格し、彼が以前助けた美女 月俄を妻にし、こわれて楚の国の王になります。
■兄弟の義 王子直
仙は、義理の父の家で王子直(ブォン・ツー・チョック)という科挙の受験生と会い
仙の方が優秀だったので、仙を兄、子直を弟として、兄弟の義を結びます。
つまり義兄弟ってことですかね。これから出世したら、互いの利益のために助け合おうということなのか?
どんな関係なのか、資料があるといいのですが。
■寺で暮らす 漢明
仙が郷里に帰る途中で、いかつい容貌の漢明(ハン・ミン)という科挙の受験生に会います。
漢明は、女性に暴行を繰り返す高官の知府事の息子に怒って、けんかをして罪を問われ、
脱獄して山の寺で暮らしていて、仙に再会します。仏門に帰依するつもりだったのですが
最終的には仙を助けて、敵(勇敢さで有名なチベットのカム人)と戦います。
■漁夫や木こりの精神的な生活
小説では仙を助ける漁夫や木こり、茶館の主人が出てきます。
彼らは、自然の中で暮らしていくことのすばらしさを語ります。
また、仙がお礼しようとしても金銭的な報酬を求めません。
■この小説のおもしろさ 人間の変貌ぶり
仙は、科挙を受けることができず、その後、始めは「次の試験がある」と言っていた友だちや
「待っています」と言っていた元の奥さんに冷たくされます。
最初やさしかった人間の変貌振りがよく書けていて、大変おもしろいです。
この辺が、この小説がただの立身出世物語でなく、人気がある所なのでしょう。
たぶん、作者自身が失明して、人間の変貌ぶりを経験したので、書けたのかもしれませんね。
■つっこみ所 師に反逆
この小説は、いきなり最初の場面で、主人公 仙が
「まだ科挙は早すぎる」と言う師に逆らって,受験のために実家に戻ってしまいます。
師を敬うベトナムで、これでいいのか?という感じですが、
この反逆的なところも、この小説の魅力なのかもしれません。
ただし、仙も最後には、あの時「恩師が、試験場はまだ遠いとおっしゃったのだ。」と
思い返して反省しています。
□本の紹介
「陸雲仙」抜粋版 作者:阮廷炤 訳者:竹内与之助 ベトナム語チュノム付き
大学書林 本の紹介
※写真はVIETVAOから