ベトナム人は詩が大好き「征婦吟曲」と「金雲翹」

「ベトナムの詩と歴史」
 この本は川本邦衛先生が、ベトナムの歴史と詩を紹介する大変読みがいがあります。絶版になっていますが、図書館や古書であるので、時間があるときぜひ読んで欲しい本です。
 様々な詩が美しい調子で訳されて紹介されていますが、その中の征婦吟曲(せいふぎんきょく)と金雲翹(キンバンキエウ)を紹介します。漢文の素養がないと言葉が意味不明なのが残念。
金雲翹
生き長らえて百歳の 此の限りある人生に
  我らが才と運命の 卻(しりぞ)けあうが慣習(ならい)とは
過ぎ逝く時に滄海(そうかい)も 桑田(くわでん)となる世の無常
 移ろい易き此の世こそ 人の心愍(あわれ)ましむ
怪しむ勿(なか)れ天錫(てんせき)の 人と所に偏すると
  薔薇の顔(かんばせ) 佳人の頬に 蒼空(そうくう)妬(ねたみ)の常なるを
燭台を前に香芳き 古き書稿(ふみ)をば 繙(ひもと)けば
  青史(せいし)に伝う風情(ふうじょう)の 今は昔の古録(ものがたり)
 滄海変じて桑田となる:世の中の移り変わり
征婦吟曲
夜毎に慕う吉き径(みち) かの陽台(ようだい)の麓やら
ある夜の夢は湘浦(しょうほ)にて ふと邂逅(めぐりあ)う郎(きみ)を見て
  思わぬ時に幾度か 郎(きみ)との団聚(まどい)は嬉しくも
    それも儚(はかな)き一抹の 枕の上の春の夢
湧きたつ忿(うらみ)只管(ひたすら)に 醒めたる時の味気なさ
ただ仮初の幻に 函谷関(かんこくかん)や隴山(ろうざん)の
  彼方に行きて郎(きみ)に遇う その喜びも束の間に
    ふと目覚めては忽(たちま)ちに 消える姿の口惜しさ
 陽台:陽台山 風光明媚な場所
 湘浦:湘江(長江の支流)
 函谷関:河南省の重要な関所
 隴山:長安と西域を結ぶ関所 
コメント
 昔からベトナム青年は文系偏重だったと言う人もいますが、豊かになった現代は「ベトナムの詩の日」というイベントもあるんですって~。ベトナム放送局によると2013年は1月14日だそうです。
ベトナム 詩の日 2013
ベトナムの詩と歴史 出版社:文藝春秋1967 著者:川本邦衛 写真はAMAZON