文庫本で読める「愛と幻想のハノイ」

aitogensou.jpg日本で翻訳されたベトナムの小説はいろいろありますが
「愛と幻想のハノイ」は唯一文庫本になった小説です。
作者のズオン・トゥー・フォン(Dương Thu Hương)は、大変に才能がある作家ですが
この本の中にも当時の様子が書いてあるように、一時執筆を制限されていました。
代表作の「Paradise of the Blind(虚構の楽園 Những thiên đường mù )」のほか、
「Memories of a Pure Spring(Lưu ly)」、「No Man’s Land(Chốn vắng)」、
「Novel without a Name(tiểu thuyết vô đề)」、
「Beyond Illusions(愛と幻想のハノイ Bên kia bờ ảo vọng)」など、
英語訳やフランス語訳されている作品が非常に多い作家です。
日本語訳されている長編は、残念ながら、この本と「虚構の楽園」 紹介ページだけです。
●あらすじ
 高校で文学を教える主人公のリンは、結婚して娘もいますが、有名な作曲家でプレーボーイのチャン・フォンと不倫の恋に落ちます。またリンは優秀な文学教師ですが、職場で批判され、左遷されるなどつらい目に合います。一方チャン・フォンは保身のために先進的な考えをひるがえして、リンを裏切って去っていきます。
●コメント
 おしゃれなアオザイの表紙やロマンチックなタイトルのイメージと違って、嫉妬のためにライバルを追い落とすチャン・フォンや、レイプ常習犯の上級幹部や、その幹部を救う記事を書かされそうになるリンの夫グエンなど、登場人物が欲望と葛藤の中で苦しむ小説です。芸術やジャーナリズムが国家と結びつくのは、あまりよろしくないようです。
「愛と幻想のハノイ」原題(Bên kia bờ ảo vọng) 1987
ズオン・トゥー・フォン(Dương Thu Hương) 英語版からの訳