ベトナムのYA小説「つぶらな瞳」


戦前の小説を続けて紹介しましたが
今回は現代小説に戻ってきました。
  →現代小説についてはこちらもどうぞ
児童文学のラブストーリー「つぶらな瞳」です
■あらすじ
 大きく3つに分かれます(わたくし的に)
 1 ベトナム中部の山間部ドードー村の、煉瓦の家(立派な家)に住む少年ガンは、
  同じ村の竹の家に住む少女ハー・ラン(つぶらな瞳)と出会い
  いっしょに遊び、助け合いながら、成長していきます。
  祖母への愛、村の遊びの様子や、塾や学校の様子、ドードー村の夜市を
  描いていて、とても楽しくロマンチックな所です。
 2 ガンとハー・ランは、村から離れた県都の中学校に進みます。
  村からは離れているので、それぞれ親戚の家に下宿します
  ガンは彼女を思う歌を作ったり、週末にいっしょに
  村まで帰省しますが、ハー・ランの生活や心はだんだん
  ガンから離れていきます。学校も女子校と男子校に分かれます。
  そして、彼女はガンの下宿先の息子ユンの恋人になってしまいます。
  ガンがハー・ランを恋し、報われないので、めちゃくちゃに
  嫉妬して恨むところです。
 3 やがてユンの子どもを産んだハー・ランは、結局結婚できずに
  女の子チャーロンを生み、村の父母に預けます。
  ガンはチャー・ロンの面倒を見、チャー・ロンは村の先生になることを
  めざします。ガンはそれでもハー・ランと結婚したかったのですが
  ハー・ランはそれを望まず、県都にとどまって暮らします。
  ガンはついに、チャー・ロンに手を出してしまいそうになるのですが
  (下世話な言い方ですみません)、冷静になって、村を去ります。
■南の小説
 そうなんです、これはベトナム中部を舞台にした、まだ1975年の南北統一前の時代の
 村の小説なんですね~。ですから出てくるアイテムも、ハノイとかなり違います。
 
 例えば
 ・ハー・ランの下宿先の叔母さん宅にある、ピカピカのサイドボード
  ビスケット、そして「コカコーラ」
 ・恋敵ユンのエレキギター、歌う西洋の歌、ヤマハのバイクにサングラス
 ガンはこれらの”資本主義的な物”をきらいます。
 また、いくらでも取れる豊富な果物や野菜、美しい花
 ・フトモモ(ローズアップル)、バイロクロガキ(小さく甘い柿)、
  インド・ジャボク(ジャスミンの様な花が咲く木 実も食べられるようです)、
  ヒユ(葉を食べる野菜)、火炎樹の花、天人花の花
  ガンはこれらを大事なものとしているようです。
 さらに、考え方も、違います。
 恋敵ユンはよく「俺個人の問題だ」などと言います。
 個人主義的な考え方が出てくるのも、おもしろいです。
■学歴社会と徴兵
 今でもそうだそうですが、高校の成績によって、上位から大学に入れるか決まり
 落ちると徴兵が待っています。恋敵ユンも、成績が悪く兵隊に行きます。
 このユンそんなに悪いやつではなくて、空手が強く、けんかした
 「これで終わりだ」とガンを家に連れって行ってくれるんですけどね。 
 でも、まじめなガンは、勉強ができない都会人ユンが心底きらいのようです。
■ガンが師範学校に通った省都 クイニョン
中部 ビンディン省の省都です。Qui Nhơn 歸仁
チャンパの遺跡があります。

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■つっこみ所 息苦しい男と新”新しい女”
 なんで、ハー・ランはガンよりユンを選んだんでのでしょう?
 ガンといっしょになることを彼女の両親も望んでいるようなのに。
 この本の後書きにも理由が少し書いてあり、
 都会の生活、楽しさなどいろいろあると思うのですが、
 一つ感じたのは、ガンはいっしょにいると
 彼女は息苦しかったのではないでしょうか?
 男子校時代のガンは、ユンとつきあって妊娠してしまう彼女の
 相談を受けますが、彼女が自分の価値観に沿わないことを
 それは不幸だと、いつもせめているような気がします。
 結局ハー・ランはガンとの結婚を拒み、ほかの人と結婚します。
 1920年代には新しい女性(上流階級)も、恋人をあきらめ、親の決めた人と結婚しましたが
 1975年には、幸せかどうかわからないけれど、自分の好きな人と結婚できるんです。
 これは進歩だと思います。
■本の紹介
「つぶらな瞳 Mắt biếc」 グエン・ニャット・アィン Nguyển Nhật Ánh 加藤栄訳 てらいんく 2004 
本の紹介 amazon
画像は天人花WIKI